終末期医療費
厚労省、後期高齢者医療制度担当者の問題記述 3日で500万円は高齢者の終末期医療に多いのか? 実際の1人当たり死亡前医療費は3日で9〜10万円 高齢者に必要な医療 手術によって死亡する高齢者が増加 比較的、高額な医療費症例 死亡前医療費が高騰する高齢者は20〜25% | このページの要旨後期高齢者医療制度について、厚生労働省の担当者は「年齢別に見ると、一番医療費がかかっているのが後期高齢者であるから、この部分の医療費を適正化していかなければならない。特に、終末期医療の評価とホスピスケアの普及が大切である。実際、高額な医療給付費を見ると、例えば、3日で500万円、1週間で1,000万円もかかっているケースがある。そうしたケースは、終末期医療に多くある」と解説し、同様の発言が与党議員からなされている。 実際には一人当たり死亡前医療費の平均額は3日間で9万円〜10万円であり、「3日で500万円、1週間で1,000万円」とは非常に稀なケースと見込まれる。 高齢者であっても寝かせきりにしないために、また苦しみ続けて尊厳を失った状態で死亡しないように、様々な医療が行われる。生涯医療費・介護費用の抑制が意図された手術も行われるが、手術を行うからには、稀に事故が発生して医療費が高額になったり、終末期ではなかった患者が終末期に陥ることもある。しかし、このような事故は稀で、医療費総額はあまり増やさない。また、このようなケースをこそ医療保険でカバーして、必要な医療までも萎縮して避けたりしないようにすることが医療保険制度の趣旨ではないか。 高齢者の救急医療では、以前から個々の医師レベルで過剰医療は抑制されている。ガン患者の疼痛管理では、稀に大量の鎮痛剤が必要となる患者もいる。このような患者の医療費までも削減しようとするならば、積極的安楽死を行う必要が出てくる。 |
厚労省、後期高齢者医療制度担当者の問題記述(枠内)
*土佐 和男(高齢者医療制度施行準備室室長補佐)編著:高齢者の医療の確保に関する法律の解説 付・高齢者の医療の確保に関する法律、法研、2008
後期高齢者の診療報酬体系の必要性 年齢別に見ると、一番医療費がかかっているのが後期高齢者であるから、この部分の医療費を適正化していかなければならない。特に、終末期医療の評価とホスピスケアの普及が大切である。実際、高額な医療給付費を見ると、例えば、3日で500万円、1週間で1,000万円もかかっているケースがある。 そうしたケースは、終末期医療に多くある。後期高齢者が亡くなりそうになり、家族が1時間でも、1分でも生かしてほしいと要望して、いろいろな治療がされる。それが、かさむと500万円とか1,000万円の金額になってしまう。その金額は、税金である公費と他の保険者からの負担金で負担する。どちらも若人が中心になって負担しているものである。 家族の感情から発生した医療費をあまねく若人が支援金として負担しなければならないということになると、若人の負担の意欲が薄らぐ可能性がある。それを抑制する仕組みを検討するのが終末期医療の評価の問題である。 また、後期高齢者の場合は、高額な医療費を使っても亡くなられる事例が多い状況がある。癌で苦しまれている方を含めてホスピスケアで、できるだけ心豊かに亡くなるまでの期間を過ごしてもらう仕組みが必要である。単純に医療費だけの側面だけではなく、その方の幸せの側面からも考えていく必要がある。 |
3日で500万円は高齢者の終末期医療に多いのか?
土佐氏は、上記記述の根拠・出典を示していない。「多い、少ない」の話をするときには、対象は何であり・何を基準にして「多い、少ない」というのか基準を示さないと混乱する。一般的な上記記述の理解として「後期高齢者の終末期医療において、死亡前医療費の平均額が3日間で500万円、1週間で1,000万円かかっていた」または「75歳以上の死亡者の過半数において、医療費が3日間で500万円、1週間で1,000万円かかっていた」という事実があるならば、土佐氏の指摘は正しいことになる。
では、実際に報告されている死亡前医療費の統計・報告をみよう。
NIHの減量計画
実際の1人当たり死亡前医療費は3日で9〜10万円
死亡月の1人1日当たり入院医療費
1日医療費 | 最高額−最低額 | 対象 | 出典 |
31,770円 | 275,180円−10,970円 | 3病院の75歳以上死亡入院患者403人 | 前田 由美子(日本医師会総合政策研究機構):後期高齢者の死亡前入院費の調査・分析、2007 |
75〜79歳 37,100円 | 1990年および1991年の社会医療診療行為別調査の病院の入院データ(70歳以上)で、当該月に死亡した449件 | 府川 哲夫(国立公衆衛生院):老人医療における死亡月の診療行為の特徴、日本公衆衛生雑誌、41(7)、597−606、1994 | |
30,738円 | 102,166円−14,206円 | 北海道鷹栖町の国保加入者で脳血管疾患の死亡者74名(平均年齢75歳) | 前田 信雄(札幌医科大学):精神・神経疾患による経済的社会的負担 脳卒中終末期の医療費、厚生省精神・神経疾患研究4年度研究報告書 精神・神経・筋疾患の頻度・発症要因及び予防に関する研究、78−80、1993 |
注:前田氏らは、死亡前入院費31,770円が後期高齢者入院医療費平均の21,500円に対して1.48倍であること。つまり終末期医療が突出して高いとは言えない事も示した。
死亡退院/生存退院するまでの1人当たり入院医療費(それぞれ2段あるうち上端が死亡退院、下段が生存退院のデータ)
注:白木氏らは、「74歳以下の患者への医療費に対して、75歳以上患者の医療費が低いこと」を指摘し、さらに「最も症例数が多い『その他疾患』において死亡退院と生存退院の平均在院日数の開きは2日しかないこと、そして重症だから在院日数が長いこと」ほかを指摘して、"「死亡前(終末期)高齢者に対して、(本来必要のない)過剰な医療資源が投入されている」という一部の論者の主張に対して、急性期医療現場における医療提供の実態を持って反論することができたと考える"としている。
*小妻 幸男(済生会熊本病院TQMセンター):心肺停止で救急車搬送となった434名の転帰からみた事前指示書の必要性、日本医療・病院管理学会誌、48(supple)、133、2011は、2008年4月1日から2010年までの27ヶ月間の心肺停止患者434名(平均年齢72.1歳、男性254名、女性180名)において、死亡患者407名の平均在院日数2.0±4.0日、総医療費267,345±585,941円、転院患者19名は227,327±977,463円、社会復帰8名は3,583,336±2,764,329円としている。転院群と社会復帰群の平均在院日数は記載なし。
死亡前30日以内の1人当たり入院医療費
30日医療費 | 最高額−最低額 | 対象 | 出典 |
633,100円 | 2,120,843円−329,090円 | 3病院の75歳以上死亡入院患者403人 | 前田 由美子(日本医師会総合政策研究機構):後期高齢者の死亡前入院費の調査・分析、2007 |
死亡前1年間の1人当たり入院医療費
子供の痛みの評価グラフのインデックス
生涯医療費
生涯医療費 | 推計データ | 推計方法 | 出典 |
1,390万円 | 2健康組合健保(加入者数は各数万人以上、期間は1997〜2000年度) | 生残者・死亡者の医療費を個別に求め、それらを同一時点の生残者・死亡者で除す。 | 今野 広紀(医療経済研究機構):生涯医療費の推計 事後的死亡者の死亡前医療費調整による推計、医療経済研究、16、5−21、2005 |
1,400万円 〜1,580万円 | 厚生白書(下記)と同じ推計方法 | ||
2,300万円 | 年齢階級別1人当たり医療費、簡易生命表の定常人口 | 一人当たり医療費と生残率を使用する。 | 厚生白書 2001年度推計 |
2,200万円 | 同上 | 同上 | 厚生白書 1997年度推計 |
以上のとおり、死亡前1人当たり平均医療費においては「3日間で500万円、1週間で1000万円」というデータは見当たらない。 厚生労働省の担当者は、高齢者の終末期医療とは関係のない症例と混同したか、医療費の平均額に影響しにくい極めて稀なケースを過大に取り上げたとみられる。
高齢者に必要な医療
「無駄な医療費は抑制されるべき、適正な医療費支出が行われるべき」との考えからは、「死亡前医療費が3日で500万円、1週間で1,000万円かかったケースが、毎年数例発生している」というレベルでも指摘される価値はあるが、そのような指摘は、まず個々の医療機関に対して診療報酬の査定の場面で行われるべきことになる。医療制度を論議する場面では、「無駄な医療」「適正な医療」の区別をしてから議論の対象とすべきではないか。
稀な高額な医療を要した症例があっても、その医療が患者に利益があり、尊厳を守り、全国的に医療費総額を何割も増やす事柄ではないかぎり、許容すべきと思われる。医療費や介護費用の削減につながり、社会参加を促進できる医療ならば、積極的に行われるべきだ。例えば、高年齢者であっても「寝かせきりにしないために、あるいは病状が悪化するままにしておいたら余計に苦しんで死を迎えることになるから」という理由で手術が行われる。手術をするからには、少ない確率だが予期せぬ事態が起こって医療費がかかることもある。終末期ではなかった方が、重体に陥ることがある。しかし、このような事故は稀で、医療費総額はあまり増やさない。
また、このようなケースをこそ医療保険でカバーして、必要な医療までも萎縮して避けたりしないようにすることが医療保険制度の本来の趣旨ではないか。このことを東北大学の佐々木氏は10年以上前に書いている(下記枠内)。
*佐々木 英忠(東北大学老人科):老年者の終末期医療、日本医事新報、3807、43−51、1997 寝たきり老人の介護側の能力についても、終末医療では考えなければならない。寝たきりになってから何年で死亡したかを調査してみると、80歳以上で寝たきりになった場合に平均1年以内で死亡するが、80歳以下では2年、更に若ければ3年過ぎてから死亡している。このことから、どうせ寝たきりになるのであれば、少なくとも80歳以上、できれば90歳以上となるべく年をとってから寝たきりになったほうが早めに死亡するため要介護期間は短くてすむということになる。そのために、医療者側もまた寝たきりにならないように様々な工夫をしなければならないのは当然である。 大腿骨骨頭置換術をして、人工骨材料費100万円、手術料20万円としても、寝たきりになると施設に入れても月30万円、在宅では付添い人を雇うと1日昼のみで1万円、1年間生きれば300万円以上介護費用としてかかってしまう。人工骨頭で自力生活してもらったほうが遥かに安い。 (中略)もし、医療費を80歳を中心に費やすのはやりすぎと考えて、老年者への医療費を削る政策をとれば、平均寿命の延びにつながらないことになろう。人が長生きしたいと思うのは食べたいという本能と同じである。医療は本来サービス業であるはずなのに、これでは人の本来の要求に応えない間違った医療政策といえよう。医療費が次第に老年者へ移ってきたことは、例えば20年前は40歳の働き盛りに脳卒中で倒れたということを通過して今日に至ったのであり、若い人が病気をしなくなったということでもあり、喜ばしいとも考えられる。 減量手術ピッツバーグのコスト |
手術によって死亡する高齢者が増加
*長谷川 敏彦(国立保健医療科学院政策科学部):高齢者と医療経済 診療の効率化 手術・処置件数と治療成績、Geriatric Medicine、42(5)、559−566、2004
1984年に46万件であった65歳以上の手術件数は、1999年に166万件に膨れ上がっている。若年層ではむしろ減少傾向が認められる。手術件数は、1985年から1999年までの15年間に、65〜74歳は3.36倍、75〜84歳は3.70倍、85歳以上は5.67倍に増加した。死亡退院率は半分に近い改善が認められる。手術死亡の可能性は低下したものの、手術件数の絶対数がきわめて急速に増加していることにより、手術によって失われる生命が絶対数としては増加している。65歳以上は1.3倍、75歳以上では1.7倍、85歳以上では3.6倍の増加となっている。
医学・医療の発達により、高齢者の手術をより安全に行うことができるようになってきたことは、きわめて喜ばしいことである。しかし、一方で、元来必要でない、あるいは侵襲的手術によってむしろ障害の可能性がある患者に手術が執行される可能性が高まったことも事実である。今後の高齢化に伴い、高齢者の手術はますます増加すると予想される。急性期病院のほとんどが老人というところが多くなると考えられる。限られた医療費を効率よく使うには、まず手術適応の厳密な判断が必要である。次いで高齢者医療、とくに手術についての知識や経験の豊かな施設が育っていく必要がある。
もはや「技術集積性への対応」をいかに考えるかは、専門家個人のレベルでも、医療界のレベルでも、さらに社会や政府のレベルでも それぞれが取り組むべき大きな課題となっているのではなかろうか。
高齢者大腿骨頸部骨折の手術で死亡率は2%
*廣瀬 隼(国立病院機構熊本医療センター整形外科):高齢者大腿骨頸部骨折の手術における術前リスクスコアの有用性、整形外科、56(5)、497−503、2005
2003年1〜6月に観血的治療を施行した大腿骨頸部骨折83例と転子部骨折43例、性別は女性96例、男性30例、年齢は60〜106(平均82.3)歳。手術はGamma-nailを43例、compression hip screw(CHS)を33例、人工骨頭置換術を50例に施行した。術後合併症は18例(14%)にみられ、そのうち在院中の死亡は2例(脳梗塞)であった。
大腿骨頸部骨折症例への手術の総合危険度評価(E-PASS)を適応することで、術後合併症の発生頻度や入院医療費が術前に予測可能となり得ることが示唆された。*廣瀬 隼(国立病院機構熊本医療センター整形外科):高齢者大腿骨頸部骨折の手術における術前リスクスコアの有用性、整形・災害外科、48(11)、1341−1346、2005
2003年1月から2004年2月に観血的治療を施行した大腿骨頸部骨折187例、性別は女性144例、男性43例、年齢は60〜106(平均81.6)歳。術後合併症は31例(16.6)に発生した。在院中死亡は4例、死亡例は手術部創深部感染のため徐々に全身状態が悪化した1例を除く3例は、いずれも総合リスクスコアが0.5以上でハイリスク患者だった可能性が指摘される。
比較的、高額な医療費症例
もちろん、死亡する直前に多額の医療費が要する患者も存在する。この現象を正確に検討するには、まず「高騰」「高額」という言葉の意味する範囲を明確にしておかなくてはならない。用語を定義した後には、すべての死亡者なかで医療費が高騰または高額であったケースの割合を把握しなければならない。現時点(2008年6月)で「高騰」「高額」の定義を行った研究者は発見していない。各研究者・医師は、「高騰」「高額」の用語を定義することなく使っているため、仮に各研究者・医師の感覚に合わせて以下のいずれかに該当する症例とする。
「高騰」について
-
死亡月の6ヵ月前の医療費を100%として、死亡当月の医療費が300%となった場合(府川論文に準ずる)
「高額」について
-
死亡退院までの医療費が300万円以上(刑部報告に準ずる)
-
1ヵ月医療費が 400万円以上(佐々木論文に準ずる)
-
3日間医療費が 500万円以上(土佐論文に準ずる)
-
1週間医療費が1,000万円以上(土佐論文に準ずる)
死亡前医療費が高騰する高齢者は20〜25%(3ヵ月以上入院例において)
*府川 哲夫(国立公衆衛生院・社会保障室長):老人死亡者の医療費、医療経済研究、1、107−118、1994
11道県の老人医療受給資格者約170万人のうち、1991年3月〜1992年2月に死亡した5万7025人のレセプトデータを分析した。死亡前に連続して3ヵ月入院したことのある約2万人を対象に、死亡月における1日当たり入院医療費の大きさで対象者を3区分に分けると、年齢計でみて対象者の約60%は死亡までの月別の1日当たり医療費は死亡当月に至るまでほとんど変わらず、約25%の者でのみ死亡月の2ヵ月前から医療費の高騰がおきているということがわかった。死亡月の受診日数が10日未満の患者を別に分析した結果も、65%の医療費はほとんど変わらず、約20%でのみ医療費の高騰がおきていた。
死亡月に1日当たり医療費が高かったグループは、死亡までの各月でも他のグループより1日当たり医療費が高かった。1日当たり入院医療費により入院患者をAグループ(2.4万円未満)、Bグループ(2.4万円以上4.0万円未満)、Cグループ(4.0万円以上)に分けたケースでは、死亡月の6ヵ月前を基準にして、Bグループは2ヵ月前が126%、死亡前月142%、死亡当月183%であり、Cグループではそれぞれ142%、185%、310%であった。
高額症例
*刑部 義美(昭和大学医学部附属藤が丘病院・救急医学科、救命救急センター):保険診療下での集中治療の問題点と対策 80歳以上の高齢者の集中治療の問題点、日本集中治療医学会雑誌、6巻Suppl、p122 、1999
1996年4月〜1998年3月に搬送された112例の80歳以上の高齢者のうち、集中治療室を転室後の死亡は23例。入院日数は死亡例が生存例に比して有意に長期であった。死亡退院までに費やした保険医療費は1例当たり約379万2千円(生存退院例は163万2千円)。人工呼吸、人工透析、血液製剤、高圧酸素、冠血管療法の治療費が総額の18.8%をしめていた。<考案>80歳以上の高齢者を治療する場合、入院初期より患者の病態や家庭環境、さらに全ての経済的な観点も考慮し治療方針を決定していくことが、我々の結果からある程度示唆できた。
注:死亡例の入院日数は記載されていないが、「入院日数は死亡例が生存例に比して有意に長期であった」とある。刑部氏らは、日本救命医療研究会雑誌10巻p173〜180の「救急医療と高齢者」で、生存退院例を含む155例の在室日数を平均14日間としている。仮に死亡退院例への医療費のほとんどが最初の1週間に費やされたとしても、厚生労働省の担当者が書いた「1週間で1000万円」とは大差がある。
日本救命医療研究会雑誌10巻p173〜180の「救急医療と高齢者」で、刑部氏らは生存退院例・死亡退院例に要した総医療費を完全社会復帰症例数 だけで割り「機能障害がない完全社会復帰例だけに限定すると約6500万円費やしていたことがわかった」と、優生思想傾向の表現をしている。
*佐々木 一晃(道都病院外科):胃癌終末期癌性疼痛に対し10,000mg/日以上の大量塩酸モルヒネを必要とした1例、臨牀と研究、80(4)、799−802、2003
65歳男性、胃癌全摘術後4ヵ月頃より背部痛を訴えるようになった。ハイペン、ボルタレン坐薬等の非ステロイド性抗炎症薬の投与を行い、疼痛はやや軽減したものの、やがて疼痛管理が不十分となったため経口モルヒネ徐放剤(カディアン20mg/日)の投与を開始した。その後、腹痛も出現し、疼痛制御不十分となってきたため同剤を徐々に増量した。しかし、癌性腹膜炎によるイレウス症状の悪化のため600mg/日以上の服用は困難で、塩酸モルヒネ注射剤400mg/日を中心静脈ルートより持続的に投与することとした。これにより飛躍的に良� �な除痛効果が得られたが、比較的短期間で疼痛制御不十分となり、4〜6日のサイクルで塩酸モルヒネを増量することとなった。最終的には12000mg/日を必要とした。当月のモルヒネ使用額として400万円以上が必要となった。
疼痛出現から死亡する迄の5ヵ月間のうち、ほぼ2ヵ月の在宅治療が可能であった。また、入院治療中も疼痛からの開放により家族との対話、読書などが可能となり癌の終末期医療の目的を達成したと考えている。
注:もしも医療費を惜しんで疼痛管理をしないならば、積極的安楽死を導入するしかなくなる。
*矢崎 誠治(駿河台日本大学病院救急医療センター):蘇生後集中治療の限界について考えさせられたDOAの1症例、救命救急医療研究会雑誌、5、5−12、1991
75歳男性は一過性の意識消失発作の既往が3回あり、1990年4月6日14時5分、会社で椅子に座っていて突然意識消失、3分後に同ビル内にある診療所医師により心肺停止状態が確認された。15分後に救急隊到着、45分後に当院に搬送された。意識レベルはJCS300点。瞳孔は散大し対光反射はなく、四肢に冷感を認めた。心電図上、心室細動。心肺蘇生法の効果で縮瞳傾向と対光反射が回復、10回目の直流通電により除細動に成功(発症97分後)。15時42分には呼び掛けに応じて開眼し、意識レベルはJCS30点に改善した。第2病日にはICS1点に改善した。
腎不全状態が次第に増悪したため、第3病日から合計12回の血液濾過を行い、改善をみた。肝機能も一時悪化したが、肝庇護療法で軽快した。しか し、人工呼吸器からの離脱は困難で、長期のICU管理を余儀なくされた。第59病日、人工呼吸器を装着したまま一般病棟に転出、感染、呼吸不全、不整脈は一進一退で第111病日に死亡、医療費は合計102万7504点に達した。
*このほか高額医療費例は白木論文において退院まで循環器疾患患者で539万円、平川論文において腹部救急患者で380万円±230万円が記載されているが、検討可能な記述が少ないため省略する。
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